
近年、活動の場をまちへと広げていく美術館が増えつつある。その多くは、商店街の活性化や空き店舗の活用、コミュニティの形成など、いわゆる“まちづくり”の一環としての活動である。しかしながら、熊本市現代美術館(以下、CAMK)のまちへの開き方は、それらのまちづくりとはやや異なり、地方自治の根幹にテコ入れをしていくような姿勢がみてとれる。本稿では、そのCAMKを対象に、「ご用聞き」と「総合計画展」という2つのプロジェクトに着目し、地方自治とアートの関係性を探りながら、まちの未来を考える場としての美術館の役割を検討していく。
なお本稿は、CAMK開館前の準備室の頃から美術館の管理運営に中心的に携わってきた副館長の岩﨑千夏氏へのヒアリングを基にしている。
CAMK・まち・日比野館長の関係
熊本市中心市街地は、2核3モールと呼ばれる商業空間を骨格とする。2核は大型の商業施設が立地する通町筋と桜町を、3モールは西日本一の長さを有するアーケード商店街と言われる上通・下通・新市街を意味する。中でも上通の南端の商業施設3階に、CAMKは立地する(図1)。2核の一つである通町筋において鶴屋百貨店の向かいに位置し、熊本市役所にも近接する、まちなかの美術館である。
CAMKは2002年に開館し、以来、公益財団法人熊本市美術文化振興財団(以下、財団)による管理運営が継続されている。開館当初、館の運営や展覧会等の業務に追われ、美術館はまちに対して閉じていたという。しかしながら開館の翌年、地方自治法の改正により指定管理者制度が導入され、2006年から3年間の特命による猶予期間を経て、公募型の指定管理への移行が決定する中、財団は「CAMKが市民に愛されなくてはならない」という危機感を抱き、まちに開いていくこととなる。
はじめに取り組んだのは、商店街との関係性の構築であった。当時、商店街関係者も、郊外のショッピングモールに客をとられるのではという不安を抱えていたこともあり、商店街活性化のためのお祭りの実行会議や商店街の店主が主体となって表現活動を行う任意団体(STREET ART-PLEX KUMAMOTO)が今後10年を議論する会合などにCAMKスタッフも参加し、実行部隊として活動することで、徐々に信頼関係が構築されていったという。そのような中で、アーティスト・日比野克彦氏の展覧会がCAMKで企画された。会期の1年前から月1回ほどの訪問によるリサーチとまちの人々との親密な交流を経て、2007年に『現代美術館開館5周年・熊本城築城400年記念「日比野克彦 HIGO BY HIBINO」』展を開催。その後も、日比野氏は年1回ほどのペースで熊本を訪れ、CAMKとともに、「アートでまちに仕掛ける」活動を行ってきた。「サッカーを応援したい」というアイディアから生まれた、サッカーの対戦国双方の国旗を一つにまとめる「マッチフラッグ」制作ワークショップは、その代表例である。
2019年、3代目館長の桜井武氏の逝去に伴い、後任選定の議論が行われた。そこで重視されたのは、「現代」美術館とは何か、ということであった。一般的に美術館の役割には、展覧会・教育普及・調査研究の3つがある。しかしながらその他にも、地域連携やおもてなしのような側面があるのではないか。これまで、CAMKが商店街とともに開催してきた、読みがたりやコンサートなどといった企画は、現代美術館ならではの特色ある活動だった。そして、2021年6月、そのような活動の仕掛け人であった日比野氏が、4代目館長に選定されることとなる。
