プロジェクトスタディ

壁画と屋外広告物条例および景観条例(大阪、神戸、天王洲)


事例1:大阪市「Dotonbori Art Street」@とんぼりリバーウォーク、「淀壁YODOKABE」@淀川区

事例2:神戸市「Kobe Mural Art Project」@神戸市役所2号館

事例3:東京都「TENNOZ ART FESTIVAL」@天王洲アイル

共通点

  • 壁の所有者の許可同意を得て描くストリートアートとしてミューラルを扱う
  • 屋外の主に壁面に描かれ、誰でも無償で鑑賞できる。
  • 本来であれば屋外広告物条例の対象となるアートである。
    他都市でも多くのミューラルプロジェクトはあるが、工事用の仮囲いや店舗のシャッターなど仮設構造物であることが多い。

比較事項

対象物

対象物
大阪市
河川構造物・民間施設
神戸市
公共施設
東京都
民間施設

【屋外広告物条例】

【屋外広告物条例】
大阪市
アートに関する記載なし
神戸市
「文字で表示されていない絵,写真等も広告物になります」
東京都
「文字で表示されていない絵、商標、シンボルマークなども、その表示する内容にかかわらず屋外広告物ということになります」
1:条例の所管
大阪市
建設局道路部管理課
神戸市
建設局道路部管理課
東京都
品川区防災まちづくり部土木管理課 占用係
2:条例内の緩和事項
大阪市
簡易広告※1という分類。
※1の参考HP: https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000462916.html
神戸市
簡易広告分類無し
東京都
3:条例への対応
大阪市
基本的に大阪市の判断は、①壁画内に広告表記の文字がないこと、②描く内容が、建物やテナント、企業を想起させるものではないこと、を条件に広告ではないという判断をしている。
・河川構造物のアートは簡易広告扱いにより屋外広告物条例適用除外
・淀川区の壁画は文字なしで広告とみなしていない。またアーティストのタグ(サイン)は文字と見なさない
神戸市
公共施策上必要な取り組みという位置づけで適用除外申請(条例で定められた割合以上の面積でアートを掲出した時の影響を調査する社会実験の位置づけ)
東京都
最初のPOW! WOW! JAPAN」はイベント用の壁画という扱いのため、イベント後は消すことになっていた。→街の人の「もったいない」から行政交渉へ。
まちの基準「天王洲地区景観まちづくりルールアイデアブック」を作ることで地元合意をクリアしてアート導入に正規ルートを確立している。
4:禁止区域
大阪市
・古墳及び墓地
・阪神高速道路の沿線
のみ
神戸市
・1低専・2低専・風致
・文化財・高速道路沿線
・阪神電鉄沿線
・都市公園・湖沼
・駅広(神戸・新神戸)
東京都
・1低専・2低専
・田園住居・特別緑地
・景観地区・美観地区
・風致地区・保安林
・文化財・墓地・火葬場
・社寺・教会
・公園・学校など
・鉄道・高速道路

【景観条例】

【景観条例】
大阪市
対象
・道頓堀川景観形成地域
・河川景観配慮ゾーン
神戸市
対象(都市景観形成地域)
東京都
対象(水辺景観形成特別地区)
対応策
大阪市
神戸市
屋外広告物適用除外に準じて協議対象外と市が判断
東京都
天王洲デザイン会議で合意されたものを品川区の景観審議会へ報告により了承。その上で別途、東京都の広告審議会に諮り了承される必要がある。そのためにルールアイデアブックが必須

【持続可能性】

1:アートプロジェクト継続性
大阪市
アートプロジェクトを行う際の道筋はある程度できているが、担当部署の裁量によるところも大きく継続性の担保はない
神戸市
今回だけの特別な措置があるため、継続性の担保がない
東京都
「天王洲地区景観まちづくりルールアイデアブック」によりアートプロジェクトを行うための筋道が出来ているため継続性が担保されている
2:アートの更新性
大阪市
数年で書き換えを計画している
神戸市
解体する建物に描いているので更新性なし
東京都
アートフェスに合わせてミューラルの書き換えを実行
3:プロジェクトの展開・拡張性
大阪市
多くの企業が賛同し始めている。
屋外広告物条例の中で描けるアートとともに順次拡大予定
神戸市
まちなかの公共事業や民間事業にアートが浸透中
・サンポチカ
・大正筋シャッターアート
など
東京都
天王洲地区全体ですでに広まっているが、これ以上の規模拡大は計画されていない。また区を跨ぐと同じ方法が取れないため他地区への水平展開も、その地区が主体的に動かない限りは難しい

【プロジェクトの効果】

【プロジェクトの効果】
大阪市
エリア価値の向上やそれに伴うテナント料の上昇につながっており地域(土地所有者、建物所有者)の利益になっているといえる。
一部のアートには企業の宣伝効果があるためスポンサーがついており、そのアートに関しては利益が出ている可能性があるがアートプロジェクト全体での収支は取れていない。
またアーティストのフィーに関しても適正価格が支払える確証はない。
神戸市
アート目的の訪問客の増加による経済効果は一定あるが、地価の上昇等に繋がっているとは言えない。
プロジェクトとしての利益は発生していないが、適正なアーティストフィーを支払うことを約束したプロジェクトであるため、アーティストのビジネスとしては成立している。
プロジェクトのスポンサーはバナー広告で掲出されており、その効果については不明確。
東京都
エリア価値向上やテナント料の上昇に繋がっており、アートプロジェクトで収支は取れていないが、地権者の企業が出資し、エリア価値向上やテナント料の上昇によりその投資を回収している。
アーティストに対しても適正なフィーとは言えないが、それなりの対価は支払えているためアーティストにとてもビジネスになりうる。

次のページ
2.大阪、神戸、天王洲のアートプロジェクトの概要

同じカテゴリの記事

プロジェクトスタディ 公開空地 建物内 企業 行政

建築計画インセンティブにおける作品や文化施設の設置

この記事では、横浜市において、都市計画法や建築基準法を基にした制度(条例や要綱を含む)を活用して、アート作品やアート拠点を設置している事例について解説する。

プロジェクトスタディ 評価 研究者

芸術活動が都市に与える影響の見える化

目次1. スマートシティの技術を用いて「見える化」する2. 何を「見える化」するか?3. 人の移動を「見える化」する技術 1. スマートシティの技術を用いて「見える化」する アートとまちづくりが融合した取り組みは増えてき

プロジェクトスタディ 広場 道路 中間団体 企業 行政

Placeとアートのよき関係についての思案はじめ

マチニワ

目次1. Placeとアートの関係2. Placeの創出方法とアート活動:自治体間での比較2-1 Placeの創出方法の分類2-2 手法①道路上にPlaceを設ける(事例:神戸市 三宮プラッツ・サンキタ広場)2-3 手法

プロジェクトスタディ 公開空地 建物内 中間団体 行政

港まちに息づくアートプロジェクトと小規模多機能型拠点(名古屋)

愛知県名古屋市の名古屋港を含む港まちを舞台として、2015年から継続的に開催されている「Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]」というアートプログラムがある。また、2016〜2020年には、音楽と現代美術のフェスティバル「Assembridge NAGOYA(アッセンブリッジ・ナゴヤ、以下:アッセンブリッジ)」が毎年開催され、それを引き継ぐ「アーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence)=AIR」を中心とした活動も行われている。

プロジェクトスタディ 公開空地 建物内 道路 中間団体 企業

大丸有で育まれたアートと公共空間

目次大丸有のまちづくり:エリアマネジメント仲通り「丸の内ストリートギャラリー」アートアワードトーキョー・藝大アーツイン丸の内 大丸有のまちづくり:エリアマネジメント 日本を代表するビジネス街・大丸有(大手町・丸の内・有楽

MENU