Think Schoolは、札幌駅前通まちづくり株式会社(以下、札幌駅前まち会社)による、アートとまちづくりを掛け合わせたプログラムである。本記事では、全国でも先駆的なこのスクールについて、カリキュラムの意図や、類似事例との比較、まち会社が事業として行う狙い、などの観点から論じることで、アートとまちづくりの関係性を考察していく。
一般的にまち会社は、エリアマネジメント団体の会員から徴収する負担金、駐車場など公共施設の管理や壁面広告による収入、自治体からの補助金や委託金を主な収入源として、まちづくりに資する事業を行う会社である。その事業内容は、まちづくりルールの作成、公共空間を活用したイベントの開催、情報発信、防犯・防災・景観美化といった取組、公共施設や公共空間の指定管理など様々であるが、アートに関するスクールを実施するまち会社は希少である。
なお本記事は、Think School運営の中心人物として、札幌駅前まち会社の社員であり、アーティストとしても活動する今村育子氏、アーティストでありThink Schoolの事務局を担っている一般社団法人PROJECTA代表の高橋喜代史氏、さらに札幌駅前まち会社の社長としてエリアマネジメントに深く関わる内川亜紀氏へのヒアリングを基にしている。
Think School立ち上げの経緯
札幌駅前まち会社のアートとまちづくりに関する取組
2010年に設立された札幌駅前まち会社は、多岐にわたるまちづくり事業を手掛けている。その中でもアートに関する取組としては、チ・カ・ホを活用したアートプロジェクト「Public Art Research Center [PARC]」(2012年~)や、空きビルを期間限定で活用して“まちの交流の場”を創出した「越山計画」(2013年)がある。また、その発展として2014年には、札幌三井JPビルディングの5階に「テラス計画」という場が開業する。翌2015年には、“アートとまちづくりに関する企画を行う仲間を増やす”ことを目的として、関連分野で活躍するゲストを講師に迎える12回のレクチャーシリーズである「Meeting Point」が行われた。こうしてアートとまちづくりに関するプログラムが始まったものの、札幌駅前まち会社には、1回のレクチャーごとに参加者を募るというやり方では、参加者同士のコミュニティ形成につながりづらい、という課題意識があった。そこで2016年に、通年でのプログラムとしてThink Schoolが立ち上げられることとなる。
札幌というまちの特徴
札幌駅前まち会社がThink Schoolを立ち上げた背景には、北海道あるいは札幌市に特有の2つの事情が存在する。一つは、北海道内には美大・芸大といった専門性の高い大学や現代美術館が立地していないが故に、道民が新しい芸術に関する学びを得る機会が少ないことを課題視したことにある。そこで、アートを専門的に学ぶというよりも、アートを起点に間口を広げ、より気軽に学びやすく、道民に裾野を広げる形で学びの場を提供する講座としてThink Schoolは開講された。またそのような講座は、転職や転勤、失業期間や退職後など、様々なライフステージにおける学びの機会を提供する上でも重要なものであった。もう一つの事情として、本州企業の支店が多い札幌では、企業の福利厚生の一環である社員教育プログラムが必ずしも十分でない場合もあり、そのような若手社員の教育の場づくりを札幌駅前まち会社が担い、エリア内の事業者同士のネットワークを構築しながらまちの価値向上に向けた機運を醸成する、というエリアマネジメントの観点がある。以上のような狙いから立ち上げられたThink Schoolには、実際に、高校生や大学生、札幌駅前通り周辺に立地する企業の若手社員といった若年層から、定年退職を迎えた高齢者、チ・カ・ホの広告を見て応募したという一般市民まで、幅広い層が参加している。