プロジェクトスタディ

札幌都心のエリアマネジメントとThink School


アート×まちづくりの人材育成と生涯学習

Think Schoolのカリキュラム

 授業は月に2~3回、土曜日の午後に2~3時間で行われ、前半は講師によるレクチャー、後半はディスカッションやワークといった構成が多い。6月から翌年3月まで、様々なゲスト講師を迎えて合計22回の授業が行われる。特に、11月上旬の中間発表までは基礎的な知識や考え方などを学ぶインプット、その後は3月の卒業制作展に向けて企画・作品のブラッシュアップを図る演習や個人面談などのアウトプットが中心となる。授業の他に、任意参加ではあるものの、芸術祭や美術館、まちづくりの事例を視察するバスツアーや研修旅行、各自の企画・作品を深めるための合同合宿といった課外活動も行われる。そして、カリキュラムを締めくくる3月の卒業制作展とその講評会は、劇場や図書館などの文化複合施設である「札幌文化芸術交流センター SCARTS」やチ・カ・ホにて公開される。最優秀賞の受賞者には、副賞として卒業後の活動に対するサポートが与えられることで、企画や個展の実現を後押しする仕組みである。
 Think Schoolの最大の特徴は、2つのコースによって構成されていることにある。それは、まちづくりやアートマネジメントに関する人材を育成するための企画コースと、アーティストとしての表現手法やプレゼンテーションの技術を学ぶ制作コースである。表1に整理したように、2つのコースではカリキュラムや卒業制作展のアウトプットに様々な違いがある。スクール生は申し込みの時点でどちらかのコースを選択するが、中には両方を受講する、あるいは一方のコースを卒業後にもう一方のコースを受講する場合もあるという。

表1 企画コースと制作コースの違い(Think Schoolのウェブサイトを基に筆者作成)

企画コースと制作コースのシナジー

 2つのコースは同時並行的に開講される上に、2コース合同で行われる講義もある。そのため、受講生はもう一方のコースの受講生とも交流し、互いの企画や作品に対して意見を交換する機会に恵まれている。自己の表現を追求する制作コースと、社会との接続を模索する企画コースでは、アウトプットに向けた視野の持ち方などが異なるが、異なる分野を混ぜることで生まれるイノベーションは、2つのコースがあることの大きなメリットであり、中には両コースの受講生が、卒業後に連携してプロジェクトを行う場合もあるという。
 企画コースと制作コースの違いは、受講生のモチベーションにおいても見られる。制作コースでは、アーティストとしての活動を志す受講生が比較的多く、実際に、最優秀賞を受賞して資金的援助を受けた卒業生は例外なく個展を開催するなど、着実に次のステップへと進むための人材育成が行われている。一方で企画コースでは、アートやまちづくりのマネジメントを学んでみたいという動機で受講する者も多い。その場合、卒業制作展で発表した企画を実現させる上では、多かれ少なかれ折衝という行為が必要となるためか、企画実現に向けた助成金もあるにもかかわらず、その実施件数は少ない。卒業後の活動も、中間支援のような役割が主となるため、卒業後も個人での活動が主となる制作コースと比較すると、企画コースの卒業生が実際のまちづくりに関与するケースは少ないのも現状である。
 このような違いは講評会においても見られる。企画コースの講評会では、発表された企画のコンセプトや社会背景を深掘りするポジティブな議論が交わされる。一方で制作コースでは、作品のコンセプトのみならず、展示方法や材料のチョイスなど細かい点について、講師から厳しい指摘が飛び交うことも少なくない。このような講評会の雰囲気の違いも、受講生のモチベーションや目標に応じた教育方針と捉えることができる。
 ただしThink Schoolは、受講の動機や目標によって受講生を限定する方針を取らない。むしろ、受講をきっかけとして、受講生が自らのペースで自身と向き合い、思案する時間を確保する。そして、アーティストである今村氏と高橋氏をはじめとした講師陣が、“伴走役として漏れなく付いてくる”プログラムなのである。それ故に、卒業制作展における成果については、完成度の個人差が大きいことも否めない。それでも、アートやまちづくりに少しでも関心のある市民・道民に、幅広いきっかけを生み出している2つのコースによって、スクールとしての重層性が形成されていると言えよう。

図1 2023年度の講評会の様子(左:企画コース 右:制作コース)

類似事例との比較にみるThink Schoolの特徴

 上記のようなカリキュラムとしての特徴を踏まえ、Think Schoolを、類似する事例と比較した(図2)。この図では、そのプログラムがアートとまちづくりのどちらの分野を主眼としているのか、そして、専門的な人材育成あるいは裾野を広げる生涯学習のどちらを主な目標としているか、という2軸によって事例を分類した。図左上の「アート×人材育成」については、美大や藝大などにおける芸術教育があてはまり、前述のように北海道内におけるこの教育の欠如がThink School立ち上げの背景ともなった。図右上の「まちづくり×人材育成」については、空き家・空き店舗の活用から地域の活性化を図るプレイヤーを育てる「リノベーションスクール」や、一般社団法人UDCイニチアチブによるまちづくりのディレクターを育てる「アーバニスト養成プログラム」といった、都市経営やまちの活性化に関わる専門人材を育成するプログラムが先行事例にある。図右下の「まちづくり×生涯学習」については、アーバンデザインセンター柏の葉が住民とともにまちづくりのアイデアを検討していくリビングラボの取組である「みんなの街づくりスタジオ」や、公共空間の私的な使用を促進する八戸市美術館の「ジャイアントルーム開拓団」といった、まちに関心のある一般市民向けのプログラムが該当する。図左下の「アート×生涯学習」については、アートの歴史や鑑賞の仕方などを教える美術館の教育プログラムや、社会人を対象にアート作品制作を通じてアート思考の学びの場を提供するソノ アイダ#新有楽町の「OUT SCHOOL」のように、一般市民の芸術的や知識や感性を高める事業があてはまる。
 そして、企画コースと制作コースによって構成されるThink Schoolは、アート×まちづくりの分野に関する専門的な人材育成と、より裾野を広げて市民の感性や創造性を高める生涯学習としての両側面を持ち、受講生の幅広いニーズに対応した、分野と目標のハイブリッド型のプログラムと言えるのではないだろうか。

図2 Think Schoolと類似する事例の比較
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内発的創造都市としての取組

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