プロジェクトスタディ

建築計画インセンティブにおける作品や文化施設の設置


3 その他の許認可制度等による文化施設の立地

横浜市では、本制度以外にも、以下の制度を使って、文化施設を設置している例がある。制度適用の要件は、ほぼ、本制度にならっているので、その詳細は省くこととする。

  • 建築基準法48条用途許可制度 
  • 特定街区(都市計画法)制度
  • 高度利用地区(都市計画法)制度
  • 地区計画(都市計画法)制度

なお、事例は、以下の表を参照されたい。

横浜市市街地環境設計制度・都市計画制度(特定街区・高度利用地区等)による文化施設・催事場整備事例
横浜市市街地環境設計制度・都市計画制度(特定街区・高度利用地区等)による文化施設・催事場整備事例

4 許認可以外の制度による文化施設の立地について

横浜市では、地区のまちづくりコンセプトにより、文化施設の誘導を行っている例がある。ここでは、みなとみらい21と、横浜ポートサイド地区という2カ所について、その事例を紹介する。

(1)横浜みなとみらい21地区(以下、MM21地区)の事例

ア)街づくり基本協定による文化施設の誘導

MM21地区では、地権者の総意で結ばれた「みなとみらい21街づくり基本協定」がある。あくまで、地権者間の紳士協定ではあるが、MM21地区の街づくりの基礎となっている規範であり、これを基にして地区計画等の地区のルールが組み立てられている。

その中で、MM21地区の都市像として、以下の3つがあげられている。

① 24時間活動する国際文化都市
② 21世紀の情報都市
③ 水と緑と歴史に囲まれた人間環境都市

その他、土地利用イメージの部分や、建物用途の部分では、「文化施設」という言葉が多々出てくる。直接的に文化施設を誘導する文言はないが、都心部の主な機能である「業務機能」や「商業機能」に加え、「国際交流施設」や「文化施設」の導入を含め、複合的な施設立地が強くうたわれている。

イ)行政指導、エリアマネジメント組織による誘導

上記のような背景から、大規模な民間施設の開発時には、横浜市役所の開発担当部署や、エリアマネジメント組織である一般社団法人 横浜みなとみらい21から、文化施設の導入が強く要望されてきた経緯がある。

開発当初からある日本丸メモリアルパークや横浜美術館をはじめとし、最初の民間開発である横浜ランドマークタワーの中には、ホールが設置され、当初はギャラリーも運営されており、多くの文化イベントが開催されてきた。横浜銀行本店ビルでは、当時銀行建築では珍しく、500席規模のはまぎんホール・ヴィアマーレも設置されている。また、三菱重工横浜ビルでは、企業ミュージアムである三菱みなとみらい技術館がオープンしている。

ウ)事業提案方式による土地売却と文化施設

MM21地区は、埋め立てと土地区画整理事業によって土地が造成されている。三菱地所をはじめとした民間の土地、区画整理主体のUR都市機構が所有している土地の他、横浜市も土地を所有しており、この公有地を順次売却することにより、MM21地区の開発は進んできた。

一般的に、公有地の売却は価格競争である入札方式により売却されるのが基本だが、MM21地区では、価格固定・事業提案方式(事業コンペ)によって売却先が決まる。これは、MM21地区にとって魅力ある開発を誘導することこそ、MM21全体の価値を高めることにつながるとの横浜市の判断である。売却益は必ずしも最大とはならないが、MM21に優秀な企業が立地し、ブランド価値が高まることに貢献している。

そしてまた、MM21街づくり基本協定や、今までの横浜市やエリアマネジメント組織からの文化施設立地の要請があったこと、文化施設や集客施設などの魅力ある施設が入っていると提案の評価が高まることから、民間デベロッパーが事業提案の中に文化施設を入れることが多い傾向がある。これらのことから、結果的にMM21地区では、民間の文化施設が大変多くなっている。

番号施設名ビル名
1カップヌードルミュージアム横浜カップヌードルミュージアム横浜
2京急ミュージアム京急グループ本社
3資生堂(S/PARK Museum)資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)
4スカイガーデン横浜ランドマークタワー
5ランドマークホール横浜ランドマークタワー
6日産グローバル本社ギャラリー日産自動車株式会社 グローバル本社
7原鉄道模型博物館横浜三井ビルディング
8プラネタリアYOKOHAMA横濱ゲートタワー
9三菱みなとみらい技術館三菱重工横浜ビル
10村田製作所(mulabo!)村田製作所みなとみらいイノベーションセンター
11YUMESAKAI GALLERYLG YOKOHAMA INNOVATION CENTER
12横浜アンパンマンこどもミュージアム横浜アンパンマンこどもミュージアム
13ぴあアリーナMMぴあアリーナMM
14はまぎんホール・ヴィアマーレ横浜銀行本店ビル
15KT Zepp YokohamaKTビル
16みらい美術館みなとみらい学園ビル
17Kアリーナ横浜Kアリーナプロジェクト(ミュージックテラス)
18横浜美術館横浜美術館
19海上保安資料館横浜館横浜海上防災基地
20横浜赤レンガ倉庫1号館赤レンガ倉庫
21CIQホール新港ふ頭客船ターミナル(横浜ハンマーヘッド)
22JICA横浜 海外移住資料館JICA横浜
23新都市ホール横浜新都市ビル/スカイビル
24首都高MMパーク首都高速道路(株)神奈川局
25横浜みなとみらいホールクイーンズスクエア横浜
26みなとみらいギャラリークイーンズスクエア横浜
27日石横浜ホール日石横浜ビル
28横浜みなとみらいブロンテ ライブ (Bronth.LIVE)ブリリアGrandeみなとみらい
表:みなとみらい21の主な文化施設

エ)横浜みなとみらい21地区の民間文化施設運営の課題

横浜市が土地売却する場合は、事業提案方式での売却が前提となっている。そして売却時には、ある程度、提案条件を売買契約の条件とすることになる。文化施設の立地についても、買戻し特約がつけられることが多い。しかし特約期間は民法上10年間なので、実質的に買主は10年間、文化施設を運営する義務を負うことになるが、10年以降は不透明である。実際に10年経過後、文化施設を転換した事例がある。(ブリリア・ショート・ショートシアターから横浜みなとみらいブロンテ ライブ (Bronth.LIVE))

MINATOMIRAI 21 ART&MUSEUM MAP(企画・発行:一般社団法人横浜みなとみらい21、2023年3月)
MINATOMIRAI 21 ART&MUSEUM MAP(企画・発行:一般社団法人横浜みなとみらい21、2023年3月)

(2)ヨコハマポートサイド地区

ヨコハマポートサイド地区は、都心臨海部総合整備の一環として、都心型住宅を中心に、商業・業務・文化施設等を集積し、21世紀を展望した国際文化都市にふさわしい、賑わいと活力ある新都心地区の形成を図ったものである。

 それまで、工場や倉庫等の非都心的土地利用がなされていたが、都市計画道路・栄本町線の整備に合わせ、新たな土地利用を図っている。

 本地区の地権者からなる街づくり協議会が組織され、横浜市との協議の中で、平成元年に「街づくり協定(紳士協定)」が発表されている。その第5条には、「アート&デザイン」の内容に合致した芸術・文化関連施設の集積をはかるとともに、デザインを隅々まで行き届かせて、魅力的な街づくりを進めるものである。と規定している。

 また、「アート&デザインの街」にふさわしい開発を進めていくための開発手法として、当初再開発地区計画を採用し、用途地域による建築物の制限や容積率の緩和により、計画誘導を行っている。「アート&デザインの街」に貢献する施設整備を行う場合は、容積率100%までは、既存の容積率に上乗せしてボーナスとして与えるという制度である。横浜市の内部基準では、次に示すような機能を備えた施設を設定している。

機能
展示表現美術館、ギャラリー、ショールーム等の展示施設
創作支援スタジオやアトリエ等の創作活動を支援する機能
育成デザインスクールや研修所等の文化や芸術に係る人材を生み育てる機能
研究開発デザイン研究所等の文化・芸術に携わる専門家のための研究・開発機能
情報交流情報センター、デザインセンター等の文化・芸術・デザイン関連の情報発信や交流活動の支援機能
生活文化カルチャーセンター、スポーツセンター等の生活文化関連機能
デザイン業務デザインオフィス、設計事務所等のデザイン関連業務機能
その他「アート&デザインの街」の形成に寄与する機能

当初、開発が進み建物が建つ時点では、街づくり協定や再開発地区計画に沿った建物が建設され、ギャラリーなどが立地していたが、時間がたつとともにだんだんと少なくなってきている。ここでも、当初のハードとしての施設整備は、再開発地区計画のインセンティブもあり、立地するが、その後。目的通りに運営されるかは、施設管理者にかかっている部分が多く、経済状況や経営状況によって、難しい面もある。

現在、ヨコハマポートサイド地区で、立地する施設は主に以下の施設である。

番号施設名ビル名
横浜ディスプレイミュージアムアルテ横浜
宮川香山 眞葛ミュージアムロア参番館
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5.民間施設によるアート(文化)拠点施設の立地の状況についての考察

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