目次
7 建築計画インセンティブにおけるアート作品やアート拠点設置の将来展開について
(1) 建築計画インセンティブの効能
結論を言うと、文化施設の立地促進の上では、建築計画インセンティブは一定の効果があるが、それは都市計画、建築関連部局が担当するハードの話であり、ソフト、運営の話まで及ぶものではない。よって、そのルールだけでは、文化芸術振興が進むとは言い難い。
(2) 建築計画インセンティブとパブリックアートの設置
パブリックアートの設置については、建築計画インセンティブは、まったく効果を発揮していない。そもそも、パブリックアートが設置されるような広場がある開発は、かなりの大規模開発に限られる。また、パブリックアートの設置が検討されるのも、完成から1~2年前ほどがほとんどで、建築計画の申請段階とは時期も合わない。しかしながら、その地区のマスタープランや、街づくりの考え方に、アートが位置づけられていれば、パブリックアートの設置が促進されていることは間違いなさそうである。ただ、アートの内容のことをどのように議論していくかは、ルールづくりだけ解決できるものでもなく難しい問題である。
(3) パブリックアートの管理について
パブリックアートは、設置後は、その建物や広場等の施設管理者によって、管理されることになる。パブリックアートは、屋外に設置される場合が多いので、紫外線や雨風によって、だんだんと劣化してくる。また、施設管理者は、アートの知識が無い場合が多く、パブリックアートがしっかりしたメンテナンスがされていない場合が散見される。
施設管理者が、オフィスビルや商業施設の場合は、建物施設の資産価値が落ちないよう、パブリックアートもメンテナンスされているケースが多いが、分譲住宅や、道路・公園などの公共団体が管理している場合は、メンテナンス費用が計上されていないことが多く、年とともに劣化する場合が多いようだ。どのように維持していくかの財源論は必須となる。
(4) 建築計画インセンティブとアート拠点・パブリックアートの展望
建築計画インセンティブは、ハード建設時に、容積等の緩和を与える制度である。日本の高度経済成長期には、その効果を発揮し、横浜ではアート拠点がこのインセンティブを使って、MM21地区を中心に多くの施設が建設されたことは間違いない。しかし、昨今では、デベロッパーが容積の緩和に魅力を感じない事例、容積の緩和を求めない事例も増えてきており、必ずしも容積の緩和というハードな制度だけでは十分とは言えない状況である。また、その施設が将来にわたってしっかりと運営されるかは、このインセンティブ制度では保証ができていない。今後は、ハードなインセンティブ制度に加え、ソフト(文化拠点の運営など)にもインセンティブが働くような新たな制度設計が求められるであろう。
一方で、パブリックアートについては、インセンティブ制度との関係があまりないことが今回の調査でわかった。今後も大規模な開発には、パブリックアートは設置されることも想像できる。パブリックアートの維持管理の質について、現状は作品によって管理者が別々のため、管理者次第というところがある。また一度作品ができてしまうと、その作品をどこまで継続、維持していくかの判断も必要で、作家や関係者との調整も難しい。本来であれば、時代の変化や都市の発展とともに、あらかじめ長期を意図した計画立案、または容易に再調整していける余地を持っておく相応しいが、それらについて議論や制度を深めていくことは今後の課題である。