プロジェクトスタディ

港まちに息づくアートプロジェクトと小規模多機能型拠点(名古屋)


設立と運営の仕組み、主要な取り組み

続いて、協議会および、協議会事業の一環として実施されているMAT, Nagoyaの設立と運営の仕組みを紹介する。また、協議会を含めた実行委員会形式で実施され、MAT, Nagoyaとも密に連携するアッセンブリッジや他の主要な事業についてもふれる。

協議会は、2006年にボートピア名古屋が開設されたことに伴い、競艇を施工する自治体(蒲郡市等)から名古屋市に交付される「環境整備協力費」(ボートピア名古屋の売上金の1%)を原資100%として運営されている。名古屋市の方針に基づき、西築地学区を中心とした港周辺地区を対象エリアとして、港まちの魅力やにぎわいづくり、暮らしやすい地域づくりを目指す事業に取り組むこととされている。

協議会のメンバーは、対象地域の学区連絡協議会や商店街振興組合の推薦者や名古屋市関係者(複数の部局)で構成。2013〜2018年のまちづくりの指針を『み(ん)なとまちのVISION BOOK』という冊子にまとめる際に事業へアート・イベントを取り入れるという方針が示され、2014年からそのプログラムづくりが始動した。協議会事務局に専門人材が加わり、吉田有里(アート・コーディネーター)、青田真也(アーティスト)、野田智子(アート・マネージャー)(2016年度まで)の3名が共同ディレクターを担う形(※)で2015年10月にアートプログラム「MAT, Nagoya」が誕生した。

※2018年から「アート関連事業」として実施方法を協議会からのプロポーザルコンペ方式に変更し、結果として吉田氏が受託者となる形で活動が継続されている。

「環境整備協力費」を活用するまちづくり事業(『み(ん)なとまちVISION BOOK』より)
「環境整備協力費」を活用するまちづくり事業(『み(ん)なとまちVISION BOOK』より)

協議会の事業は、その性質により「暮らす」「集う」「創る」を3つの柱としており、MAT, Nagoyaは主に「創る」の部分にあたる。

また、地域課題を整理して、市が直接実施する事業の要望や協働推進も行っており、アッセンブリッジ(※)やそれを引き継ぐAIRもその例だ。これらの事業費については、文化庁による「文化芸術創造拠点形成事業」「アーティスト・イン・レジデンス活動支援事業」などの公的支援金を一部活用するなどしている。

※実行委員会形式で開催。構成団体は名古屋市、港まちづくり協議会、名古屋港管理組合、公益財団法人名古屋フィルハーモニー交響楽団、公益財団法人名古屋市文化振興事業団。名古屋市は事業費の原資を負担し公的な事務・調整業務などを担う。協議会は吉田氏がMAT, Nagoyaの運営時に密に連携可能な専門人材を配置した企画体制を構築し、実際の企画運営や事務局業務等を担う。

まちを知る活動

ここからは活動の特徴やポイントを挙げていく。ここまでで紹介した通り、協議会の事業そのものはMAT, Nagoya開始に9年先行し、まちづくりに関わる様々な活動を行ってきた。まちの人の声を聞き、そういった声を通してまちを知る機会も多い。

例えば2011年から発行していた広報紙『ぶらり港まち新聞』や2015年に発行した『ぶらり港まちBOOK』制作のための取材。先述したまちづくり指針を定めたりする際のアンケートやワークショップ、毎年の事業計画作成時に地域からも公募する事業計画作成部会員との意見交換もある。また協議会メンバーにも住民が含まれ、事務局員や事業に関わる人の中にも住民となる者がいることから、協議会および事務局に携わる者が生活として知るまちの姿もある。

MAT, Nagoyaが始動すると、まちづくりに関わるか否かをさておいて、アーティストやクリエイターが自らの興味と視点を元にまちを知る活動を行う。事務局やコーディネーターが知る情報を深めることもあるだろうが、彼/彼女らでなければそもそも出会わなかった情報や人も出てくる。

港まち100周年記念ブック『ぶらり港まちBOOK』と広報紙『ぶらり港まち新聞』

地域の小学校が2015年で創立100周年を迎える節目を港まちエリアの100周年とみなしたフリーBOOKを制作。2011年から約4年取材・紹介してきた広報紙のエッセンスもその元になった。

港まち100周年記念ブック『ぶらり港まちBOOK』
港まち100周年記念ブック『ぶらり港まちBOOK』
広報紙『ぶらり港まち新聞』
広報紙『ぶらり港まち新聞』

碓井ゆい《要求と抵抗》作品リサーチ、展示

碓井氏は2018年の春より港まちに通い、インタビューの手法でリサーチを進める中で、1972年に港保育園で起こった保育者や園児の環境を守るための運動「自主管理保育闘争」に着目した。当時の運動で掲げられていたスローガンやイラストを、保育士を象徴するエプロンにパッチワークや刺繍の技法で縫いつけ、作品化を試みた。また、後述する港まち手芸部のメンバーや、当時の港保育園の保育に携わる人びとと共同制作を行った。

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まちにしみ出し、はみ出していく活動

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