目次
1. はじめに
この記事では、横浜市において、都市計画法や建築基準法を基にした制度(条例や要綱を含む)を活用して、アート作品やアート拠点を設置している事例について解説する。
横浜市の「横浜市市街地環境設計制度」では、建築計画をする際、一定の公開空地を整備し文化施設を設置することでインセンティブを付与する独自の規定があり、いくつかの事例がある。この制度に準じて、建築基準法や都市計画法の許可でも同じように文化施設の設置でインセンティブが付与できるようになっている。制度とエリアの両面から、主に民間のアート拠点施設やパブリックアートが、どのようにインセンティブ制度を活用して立地・設置されているか現状から分析し、あわせて将来の展望や課題も考察する。
2 横浜市市街地環境設計制度による文化施設立地について
横浜市では、1970年ころから、建築許可制度を活用して、歩道の拡幅に対して容積や高さの緩和を行うことにより、横浜の市街地に足りない都市施設を誘導する試みがなされている。
これらのシステムを制度化した、「横浜市市街地環境設計制度」は、昭和48年(1973年)に導入されている。当初は、横浜市の関内地区を中心に、歩道の拡幅や広場整備などの歩行者空間の整備をすることを条件に、高さと容積率の緩和を建築許可するものであり、全国一般的には建築基準法の総合設計制度として運用されている。しかし、横浜市市街地環境設計制度は、総合設計制度ができる前から横浜市で独自に運用しているのと、本章でのべる文化施設の導入や、歴史的建造物の保存などでもインセンティブを与えているように、横浜市独自の発展を見せている。
制度がつくられて5年後の1978年の制度改正時には、「公共への貢献が認められる場合」もインセンティブが付与できる規定が加わり、1985年には、条文上も「文化施設を含む建築物」に対して、インセンティブが付与できる規定が加わっている。40年も前から、文化施設に対するインセンティブが付与される制度が出来あがっており、これは画期的なことと言える。
(1)制度の概要
概要は、下記図の本制度を参照してほしい。基本は、歩道や広場など一般の人が利用できる空地(公開空地という)を設けることにより、容積率や高さの制限規制を緩和するものであるが、建築確認ではなく建築許可であり、特定行政庁の裁量として建築審査会の同意を得て許可するものである。
許可なので、横浜市及び地域の街づくりの方針等に整合していることや、良好な建築計画であることが前提となっている。この街づくりの方針等は、法的根拠があるものだけでなく地域の住民や地権者が作った「まちづくり協定(いわゆる紳士協定)」も含まれることから、街づくりの方針に、文化やアートについて語られていれば許認可部署からも行政指導を受けることとなる。
一定の公開空地の確保をしたうえで、特定施設による容積率の緩和規定があるが、その特定施設の中に「文化施設を含む建築物」という項目がある。その他には、「歴史的建造物の保存・修復を行う建築物」、「自動車車庫の確保等市街地の環境改善に寄与する建築物」、「福祉施設等を含む建築物」、「地域の防災・環境の向上に寄与する施設を含む建築物」の他、子育て施設や高齢者施設、地域交流施設、医療・健康増進施設、生活利便施設などの「生活支援施設等を含む建築物」にも適用されている。
(2)本制度と文化施設等との関係
文化施設としては、「ホール」、「ギャラリー」、「博物館」、「資料館」、「記念館」等が例示されており、不特定多数の市民が自由に利用できるものであり、市民文化の振興に寄与すると認められる施設としている。対象地区や施設規模での一定の要件の他、将来にわたり適切に管理、運営されると認められるものという要件がついている。
(3)本制度における文化施設の設置による容積率の加算
文化施設を含む建築物の場合、公開空地の確保(必須要件)による容積率の加算及び高さの制限の緩和の他に、文化施設による容積率の加算を行うことができる。
(4)本制度による文化施設の設置の事例
本制度による、文化施設(歴史的建造物も一部含む)の設置事例は、20件ほどである。事例としては、公営が多く、民営の文化施設は、半分弱の9件ほど(うち歴史的建造物が2件)である。
主なものとしては、以下の通りである。
- 横浜新都市センタービル(新都市ホール)
- 横浜銀行本店ビル(浜銀ホール)
- 三菱重工横浜ビル(展示場)
- 県民共済プラザビル(劇場・集会場)
- 横浜メディアセンター(テレビスタジオ)
- 京急グループ本社ビル(展示場)
- 関東学院大学関内キャンパス(劇場)
(5)本制度と文化施設の運営の課題
本制度は、建築基準法を根拠に許可を行っている関係で、文化施設の設置を条件に容積率の上乗せをした場合で、後々、施設の運営がうまくいかなくなった時に問題が発生する可能性がある。
文化施設の運営が停止しただけで、施設そのものが残っていれば違反とは言えないが、施設を文化施設以外の用途に変更はできない。施設そのものが残っていても、他用途で運営された段階で、建築基準法違反となる可能性がある。